2015年度研究会(第20回~23回)

第23回外国語教育質的研究会

日時:2016年3月5日(土)14:00-17:00
場所:青山学院大学第15号館3F15305教室

 

1. 研究発表 14:05-15:25

発表者:吉田真美(京都外国語大学) 

題目:教職志望の学生の指導実践経験とその省察活動による成長:
4人のケースの内省プロセスと指導実践記録の分析から

概要:
本研究では、マイクロエスノグラフィー(箕浦、1993, 2009)という手法を用いて、教職志望の学生が、小学校での英語指導実践を体験し、省察的にその実践を振り返りながら指導実践を繰り返す過程で、どのような学びや成長があるのかかを考察する。
教職課程を履修する4名の学生に焦点をあて、半構造化面接で見られた個々のが教育感や課題及び省察が、準備段階のミーティングや本番の指導実践でどのように反映されているかを、活動の参与観察記録から考察した。
インタビューデータやフィールドノートから作成された逐語録をグラウンディッドセオリーアプローチの手法を用いて切片(コード)化し、軸足コードを抽出し、さらにカテゴリーに分けた。カテゴリー間の相関関係の解釈を試みるだけでなく、異なった教育感や学習体験を持つ4名の学生が、英語教育への信条、児童への接し方や教室管理能力や指導技術などの自己評価において、どのように本活動から影響を受けているかを明らかにする。教員養成課程での反省実践のサイクルによる学習効果の可能性を探りたい。

 

2. 話題提供 15:40-17:00

発表者:田所貴大(千葉大学大学院)

題目:TEM(複線径路・等至性モデリング)を用いた言語教師認知に関する研究計画

概要:
本話題提供では,2016年度提出予定の修士論文の計画を提示する。
言語教師認知研究では,言語教師がどのような認知のプロセスを持って成長しているのかを探求する。そして,教師の認知は信念体系を書くとした心的活動として定義できる。Lortie (1975)は,教師が教職に就く前に,教師観,授業観,教育観といった信念・心情が学習者としての被教育経験を通して形成されると指摘する。そのため,本研究では,養成段階までにおいてどのような言語教師が信念・信条が形成され,初任段階において,それがどのように変容するか探求することを目的とする。
研究手法として,TEM (Trajectory Equifinality Modeling: 複線径路・等至性モデリング)を用いる。TEMとは,人間の成長を時間的変化と文化社会的文脈との関係の中で捉え,記述するための方法論的枠組みで,等至性(Equifinality)という概念を発達的・文化的事象の心理学的研究に組み込もうと考えたValsiner (2001)の考えに基づくものである(Valsiner & Sato, 2006) 。TEMは,非可逆的な時間の流れのなかで生きる人の行動や選択の経路を,インタビュー調査等の分析をもとに図式化する。そのことから,本研究では,言語教師が,養成段階から初任段階においてどのような行動や選択をし,言語教師としての成長をするのかを探る。
発表者は質的研究の初心者のため,上記の研究計画に交え,質的研究を行っていく上での悩みや課題などを提示する。基礎的な問題ではあるが,そこから有益な議論へと発展し,各々のさらなる質的研究の理解につながると幸いである。

 

第22回外国語教育質的研究会

日時:2015年12月5日(土)14:00-17:00
場所:青山学院大学第15号館(ガウチャー)3F(15308教室)

 

1. 話題提供 14:05-15:25
発表者: 瀧野みゆき(Southampton大学 博士課程修了)
題目:「ナラティブ・アプローチ」実践の経験から
概要:ナラティブ・アプローチは、近年言語学のフィールドでも、従来の研究成果に新しい視点を拓くオータナティブな研究方法として積極的に取り入れられ、特に、バイ/マルチリンガル言語使用者のアイデンティティと、その変化の軌跡に焦点を絞る研究が盛んになっています(e.g. Pavlenko, 2002; 2008; Norton & Early, 2011; Kanno, 2000; De Fina & Georgakopoulou, 2008; De Fina, 2009)。この発表では、筆者が英国サザンプトン大学の応用言語学の博士課程研究で「ナラティブ・アプローチ」を取り入れた際の、「epistemological and methodological issues」を具体的にご説明し、参加者の皆様と、ナラティブ・アプローチの定義、可能性、限界などについて議論することを目的とします。
私は、以下の内容について、個人的な研究の経験をお話しいたします。

1. 本研究の動機と目的
2. ナラティブ・アプローチとの出会いと研究方法の具体化のプロセス
3. アップグレードにおけるナラティブ論争 
     o アイデンティティを語らなければナラティブではない?
4. 博士論文におけるナラティブ研究のレビューの論点
     o ナラティブ・アプローチの定義の多様性
     o ナラティブ・アプローチでアイデンティティを分析する限界
     o ナラティブインタビューと分析、原稿執筆における倫理問題

2. ディスカッション 15:40-17:00
ファシリテーター:高木亜希子(青山学院大学)
概要:日本語教育における質的研究の概説論文に基づき、参加者同士でグループ
   に分かれて意見交換をします。英語教育などご自身の研究分野との相違や
   個人の研究との関連なども考えながら、各自以下の文献を事前に読んで
   きてください。
文献:舘岡洋子(2015)「第1章 日本語教育における質的研究の可能性と挑戦:
     「日本語教育学」としての自律的な発展を目指して」『日本語教育のための

      質的研究入門:学習・教師・教室をいかに描くか』舘岡洋子編 ココ出版 pp.3-25
   八木真奈美(2015)「第2章 質的研究の認識論:言葉を使う人間とその世界を

     理解するために『日本語教育のための質的研究入門:学習・教師・教室をいかに

     描くか』舘岡洋子編 ココ出版 pp.27-48

第21回外国語教育質的研究会

日時:2015年9月26日(土)14:00-17:00
場所:青山学院大学第14号館総研ビル5F(14507教室)

 

1. 研究発表 14:05-15:25
発表者: 上條武(立命館大学)
題目: L2 Learners' Cognitive and Metacognitive Strategies in Reading Strategy Portfolios: Application of Mixed Methods Research
概要:
L2読解ストラテジー研究では、think-aloudや質問紙が多く採用されてきた。しかしこれらの手法では、学習のプロセスにおけるメタ認知ストラテジーを十分に調査できない。これに対して、ストラテジーポートフォリオでは、学習プロセスの認知およびメタ認知ストラテジーのデータが把握できる。
本研究ではIkeda and Takeuchi(2006)による研究手法のデザインを広げ、大学のL2読解クラス学習者のストラテジーポートフォリオをMixed methodsにより分析、評価した。理論的な枠組みには社会文化理論(Donato and McCormick, 1994)を採用した。認知およびメタ認知ストラテジーのコーディングデータを数値化してクラスター分析をした後に、成功している学習者4名を選別して、質的なコーディング分析によりデータの評価を行った。成功している学習者は、エントリーごとにトップダウンアプローチにより分析的に読んでいたことがわかり、さらにこのストラテジー使用を
継続的に評価しながら改善していくというメタ認知ストラテジーにかかわる記述がみられた。ここでは研究結果の考察と今後の研究についても検討も行う。

 

2. 話題提供 15:40-17:00

発表者:角田美和(上智大学大学院)
題目:Identity and Language Learning
      -From Lived Experiences of Japanese Expatriate Spouses In America
概要:This study explores the experiences of Japanese expatriate spouses who lived in a suburb of New York City while accompanying their husbands on job assignments.  It focuses on their real-life experiences retrospectively, especially with respect to the relationship with their English language learning/use and identity negotiation or construction in various intercultural communication situations. Grounded in poststructuralist
perspectives of identity and language learning (e.g., Norton, 2000) and the notion of “communities of practice” (Lave & Wenger, 1991), it explores specifically what situations they found challenging/difficult and what factors inhibited or encouraged their use of English; how their perception of their identity as L2 users changed over time as a result of experiences in the United States; and what implications can be drawn from their experiences for English learning/teaching in Japan.  In addition to a 4-item questionnaire administered to 10 participants, three were chosen as best informants, and a three-hour interview was then conducted with these three. Furthermore, an autoethnographic method
was employed, contrasting the narratives of the expatriate wives and the researcher's own experiences documented as diary entries for in-depth analysis. Based on the findings, the study discusses the native-speakerism (Holliday, 2006) embedded in Japanese L2 users/learners of English and the meaning of teaching English as an international language.

 

第20回外国語教育質的研究会

日時:2015年6月20日(土)14:00-17:00
場所:青山学院大学第14号館総研ビル8F第10会議室
 

1. 研究発表 14:05-15:25
題目:Exploring narratives: A dialogue on theoretical and methodological issues

発表者:宮原万寿子(国際基督教大学)

概要:
Taking a narrative approach in language learning research is nothing new. However, methodological issues that emerges in the process of the research - particularly, the ideas and practices relating to conducting, analyzing, and reporting narrative data ? is still an area that merits considerable discussion.

Using data collected from a study that offers a unique perspective on the role of experience, emotions, and individuals responses in shaping their self-perceptions as English learners at Japanese higher education (Miyahara, 2014; in press, Miyahara, July 2015), I argue that narrative studies are basically interpretative in nature. In this context, I would like to emphasis the importance of making explicit the theoretical assumptions
that guide the researchers in conducting their studies. At the Forum, I hope to discuss and share ideas with the participants in exploring how researchers’ theoretical stance can be reflected in all stages of the research process.

発表言語:日本語


2. 話題提供 15:40-17:00

発表者:伊東弥香(東海大学)

題目:英語教員の資質能力に関する研究-専門性規準・基準とグローバル・リテラシー育成

概要:
本研究の目的は「大学の英語科教職課程で身に付けるべき力」に関して,小・中・高を通して育成するべき「グローバル・リテラシー・国際対話能力」の視点から提言を行うことである。具体的には,日本の(1)学校英語の教育内容における一貫性の欠如,(2)教員養成段階における教員の専門性規準・基準の不在に着目し,日本とは対照的に教員の専門規準・基準を設けている諸外国の「学び」の実態から示唆を得るものとする。
本発表では,日本の英語科教員養成の現状と課題とともに,米国とオーストラリアの教員養成プログラムについて報告する。話題提供の材料として,米国と日本の教職履修生を対象に実施した『英語教員の資質能力に関するアンケート』調査結果を参加者と共有し,その分析方法などについてディスカッションしたいと考える。