日時:2018年3月3日(土)14:00-17:00
場所:青山学院大学14号館5階14507
1. 研究発表 14:00-15:25
題目:英語俳句から見るアイデンティティ研究 —第二言語ライティング教育・研究の視点から—
発表者:飯田敦史(群馬大学)
概要:詩や俳句を用いた学習は、第二言語習得に良い効果をもたらすと考えられている。しかし、英語を外国語とする教育環境下においては、俳句を用いたライティング学習法はあまり普及していない。また、教育効果を検証する研究も非常に限られており、日本固有の文化である俳句をどのように英語教育・研究に活用できるかは議論の余地がある。
そこで本発表では、英語俳句ライティングを用いた教育実践例及び、質的事例研究を報告する。本研究は、「Poetic identityとは何か」を調査することを目的とし、英語学習者が作成した俳句に着目することで、テクストの中で書き手がどのように自己を位置づけ、自身を表現するのかを分析した。本発表では、研究結果に基づき、俳句作成がもたらす英語ライティング指導法への新たな可能性を議論する。
2. 研究発表 15:40-17:00
題目:多読プログラムにおける学習プロセス:2年間のインタビュー分析から
発表者:吉田真美 (京都外国語大学)
概要:外国語大学における2年間の多読プログラムにおいて、学習者が辿る学習プロセスを、インタビューデータの分析から考察する。英語でのリーディング活動についての意識アンケートにおいて入学時から半年後に大きく変化したと思われる学生を、因子分析の結果に基づき抽出し、多読後の読書活動も含め2年間半の追跡調査を行った。4回のインタビューデータ以外に、読破語数及びTOEIC得点などのデータも参照した。多読開始後半年間には、読解プロセスや英語での読解活動への態度において著しい変化が見られた。それ以降は教員やクラスメートからの影響がその後の学習パターンを決定することが分かった。さらに課外活動等との両立の難しさや、課題の設定のされ方などの外的な要因が相互に関連し合い、要因学習者の読みに関する動機付けや読みにおけるパフォーマンスに影響を与えていることが分かった。トップリーダーではない、平均的な学習者またはむしろ困難に直面した学習者の2年間の多読学習過程を、定期的に質的に調査することで、数値上の変化からだけでは見えない本プログラムが与える影響と問題点が明らかになった。教員の役割や、リーディングコミュニティの育成等、大学規模の多読プログラムにおいて学習効果を高めるための示唆を考察する。
日時:2017年12月16日(土)14:00-17:00
場所:青山学院大学15号館15309
1. 研究発表 14:00-15:25
題目:ライティングタスクの定期的な実施とそのフィードバック
発表者:蕨 知英(墨田区立本所中学校)
概要:本実践研究は、平成29年度に中部地区英語教育学会で発表した内容である。学習者にfluencyとaccuracyを両立させたアウトプットをさせるために、教師の効果的なフィードバックのあり方を明らかにすることを目的としている。公立中学1年生を対象にライティングのfluencyを高めるために、ライティングタスクを定期的に実施し、accuracyを高めるためのフィードバックを行った。中学1年生3人の学習者に焦点を当て、生徒が書いたライティングと教師が書いたジャーナルの分析を通して、生徒のアウトプットと教師のフィードバックの変容を追った。分析にあたり、2016年4月~2017年の3月の実践を初期、中期、後期の3回に区切り、分析の結果、それぞれの生徒の変容の特徴が明らかになった。
ライティングタスクを定期的に実施することにより、アウトプットの具体的な内容が明らかになり、フィードバックシートを用いた意義と生徒の特性に応じたフィードバックの仕方の課題が浮かび上がってきた。発表では、こうしたライティング活動の成果を報告しつつ、参加者の皆さんから論文に仕上げるために必要な事柄をご教授いただければ大変ありがたい。
2. 話題提供 15:40-17:00
題目:実践研究におけるジャーナルの意味―中学校英語教員の経験を事例として―
発表者:髙木亜希子(青山学院大学)・蕨知英(墨田区立本所中学校)
概要:本研究の目的は,初めて実践研究に取り組む中学校教員にとって、1年間ジャーナルを記述することはどのような意味があるかを明らかにすることであった。ジャーナルは、第一発表者の提案により、実践の振り返り及び実践研究のデータ収集のツールとして、第二発表者により,2016年4月から2017年2月に記述された。ジャーナルに対する認識の構造を探るため、Personal Attitude Construct (PAC)分析を用い、内藤(1997)の手続きに沿って2回のセッションを実施した。クラスター分析の結果、6つのクラスターが抽出された。当初は、クラスター1と2が示すように、実践そのものとジャーナルの記述が困難に感じられた。しかしながら、慣れてくると、クラスター3~6で示される「客観的な視点の獲得」、「仲間との繋がりによる気づき」、「実践のPDCAサイクルの確立」、「実践での気づきと問直し」のサイクルが上手く回るようになり、実践の改善と自身の成長が実感されるようになってきた。蕨氏による実践研究報告を踏まえて、本話題提供を行うことで、混合研究法としてのPAC分析の可能性と課題についても参加者と議論したい。
日時:2017年9月16日(土)14:00-17:00
場所:青山学院大学17号館7階17713教室
1. 研究発表 14:00-15:25
発表者:階戸陽太(北陸大学)
題目:教職課程の英語科教育法で合同授業を行う意義
概要:本発表では,非教育学部系の教職課程の英語科教育法の授業で,2年生と3年生の合同授業を設定する取り組みについて報告し,学生の振り返りを通して,合同で授業を行うことの意義について提言することを目的としている。発表者は,非教育学部の教職課程の授業である英語科教育法を担当している。この授業は,2年次と3年次に開講される。別々の授業を,日程を変更させることで,合同で行い,中学校,高等学校への授業見学,3年生の模擬授業を実施した。振り返りの分析を通して,合同授業で,それぞれの学年に影響が表れた。当日は分析結果を詳しく報告し,さらに合同で英語科教育法を行う意義について提言する。
2. 研究発表 15:40-17:00
発表者:東條弘子(宮崎大学)
題目:大学英語ライティング授業における協働的な対話の特徴:
学習者間での互恵的な質問の分析と検討
概要:本研究は、筆者が実施した90分の大学英語ライティング授業で生起した協働的な対話の特徴を明らかにすることを目的としている。学生3人で構成された3つの小集団で、異文化間コミュニケーションに関わるエッセー (1,000 words) の各自による概要を討議する際に、序論で示す「用語の定義」についての理解がどのように深化するのかを、グループ間での母語による授業談話を基に比較した。「互恵的な質問」の概念に則り、3つの事例談話における学生間、ならびに教師と学生間における対話の様相を分析し検討した。個々の「わからないこと」に即する質問が発せられ、相互に意見の交流がなされる中、議論は「定義とは何か」、「どこに挿入するのか」に始まり、話題は最終的に「用語をどのように定義するのか」へと移行していった。さらに序論全体の構成について、既有知であるthesis statement の概念を用いた説明が学生により施され、ライティング授業における学習内容に関する知識構築過程の一端が捉えられた。
日時:2017年7月1日(土)14:00-17:00
場所:青山学院大学15号館15306教室
1. 研究発表 14:00-15:25
発表者:齊藤隆春(流通経済大学)
題目:Exploring Nonnative-English-Speaking Teachers’ Experiences in Teaching English at a U.S. University
概要:本研究はアメリカの大学教育における英語を母国語としない英語教師 (international graduate assistant teachers) のアイデンティティー形成について調査したものである。Inner circle(英語が第一言語として話されている国)でもTESOL等、言語教育分野においてnonnative speaker English teachers は影響力を持ちつつあり、質的調査を通してその役割を探求することには意義がある。この研究の理論的フレームワークは、native/nonnative dichotomies、social identity (Norton, 1995)、 そしてlanguage ideologyを土台にしている。質的研究手法として、phenomenological case studiesを用いた。データ収集はphenomenological in-depth interviews (Seidman, 1998)、 クラスルーム観察、教師プロフィール, autobiographical accounts of research participants、学生アンケート等を用いた。質的データ分析は、the constant comparative method (Merriam, 1998) に頼った。5人の被験者(Freshman English composition を教えている international graduate assistant teachers)を事例として深く理解するために、各自の教育歴を振り返ることを通しての通時的に、また現在の教育実践やその特徴を通して共時的に、記述と分析を試みた。また主題分析を通して、standard English ideologyが支配的な社会コンテクストの中での、challenging, changing, and growing over time としてのアイデンティティー形成、そしてその形成に影響を与えているeducational and linguistic capital、adaptive transformation、 resistanceそしてinvestment等の要因が複雑に絡み合うダイナミクスが浮かび上がってきた。よって個人と社会コンテクストとのパワーリレーションの中での錯雑した、時に矛盾したダイナミクスのあるアイデンティティー形成をこの研究は示唆している。(アリゾナ大学でのDissertationを基にしています。)
2. 研究発表(+意見交換)15:40-17:00
発表者:阿部始子(東京学芸大学)
題目:質的研究手法を生かした探求的授業研究―質的授業研究を広めていくために―
概要:本発表では2つのことを目的としている。一つは、「国際理解教育と小学校英語教育を結ぶカリキュラム構築を目指した探求的実践(Exploratory Practice)―質的研究手法を活かして―」(日本児童英語教育学会紀要36号in
press)の概要を説明した後で、その研究の舞台裏(小学校英語の教室データ収集の仕方、複数のデータの提示の仕方、ケーススタディーの書き方)を紹介させていただきながら、参加者のみなさんとよりよい質的研究手法について考えること、二つ目に、質的研究手法による授業研究(質的授業研究)を研究者・実践者の方々に広めていくためにはどのような工夫が必要かについて、皆さんと意見交換をするという事である。
上記論文は、Allwright(2005)が提唱する教室での生活の質(quality of lifeあるいはquality of classroom life)を向上することを目指す探求的実践(Exploratory Practice:
EP)と位置付けている。教室での生活の質は,当事者によってその解釈が違うこと,この当事者の解釈は変化の起こった文脈に影響を受けること,その文脈は人・場所・個別の背景等といった様々な要因で複雑に構成されていること等を考慮し,教室内で常に変化し続ける「児童のありのまま」をとらえるために,
変化を起こすことではなく変化を深く理解することを目的とした探求的な解釈的アプローチを採用した。本研究では、国際理解教育と小学校英語教育を結ぶためのカリキュラム構築を目指し,この「児童のありのままの姿」を捉えカリキュラムへの示唆を得ることを目的とし、録画ビデオに基づくジャーナル,ポートフォリオ,アンケート,リスニングクイズ,インタビュー等の異なる種類のデータを用い、複数のデータによる多角的分析及びNVivo11を使用した分析過程の可視化によって,信頼性を確保できるように努めた。
このような質的研究手法を用いた授業研究は、教師が日常的に行っている観察、児童や同僚との対話、児童が取り組んだ作品を集めたポートフォリオなどが主なデータリソースである。こうした「日常的に豊富なデータ」をもとにしてリサーチが可能ならば、教師教育に携わる研究者及び教師がそのデータの価値に気づきリサーチとして書き上げ共有することの意義をもっと認知してもいいのではないかと感じている。質的授業研究の普及方法について、参加者の皆さんからご意見をいただければ大変ありがたい。