第39回外国語教育質的研究会

日時:2021年6月20日(日)13:00-16:00 (懇談会16:00-17:00)

*Zoomによるオンライン開催

  

1. 話題提供 13:00-14:25

題目:「アメリカ心理学会投稿マニュアル第7版(2020)の新基準JARS:質的研究者VS量的研究者の和解と連携のために」 

 

発表者:いとうたけひこ(和光大学)

 

概要:アメリカ心理学会は、Publication Manual第7版(2020)(以下、APAマニュアル)において、論文投稿者と査読者に向け画期的な提案を行いました。APAマニュアルは、心理学のみならず、論文形式の標準的な規範として、応用言語学・英語教育学を含め、様々な学術誌で採用されています。

 一般に、質的研究論文を投稿すると、査読者の一人は、質的研究方法の専門家で、もう一人の査読者は、その分野の専門家という組み合わせが多いです。後者が量的研究しか経験がない場合、量的研究のパラダイムで見当外れな査読をし、その結果、不当な査読コメントにより、投稿者が修正・再投稿を諦めざるを得ず、泣き寝入りすることもあります。これまで、質的研究と量的研究の間には、深くて暗い川が流れていたのです。

 両者の橋渡しとして、第7版のAPAマニュアルでは、Journal Article Reporting Standards(JARS)という新しい基準が設置されました。この基準では、量的研究法、質的研究法、混合研究法における投稿論文の書き方及び査読者の心得が提案されています。JARSの意義は、3点あります。第一に、質的研究の論文執筆の作法が分かります。第二に、量的査読者の質的研究に対する枠組みが提案されています。第三に量的査読者による質的研究への不当な要求が抑制されます。

英語教育では、主にAPA方式が採用されている状況を鑑み、本発表では、質的研究がより公正に査読されるための強いツールを皆さまに紹介します。なお、発表者は心理学者で230本以上の論文を出版しています。本人はテキストマイニングを含む量的研究者ですが、質的研究者との共同研究も多数出版しています(https://www.itotakehiko.com/papers/)。

 

(休憩5分)

 

2. 話題提供 14:30-15:55

題目:『英語教育論文執筆ガイドブック』の質的研究論文事例:論文執筆者による解説と考察

 

発表者:髙木亜希子(青山学院大学)

 

概要:本話題提供では、話題提供1を踏まえた上で、発表者が執筆した質的研究論文について解説と考察を行います。2020年に出版された『英語教育論文執筆ガイドブック:ジャーナル掲載に向けたコツとヒント』(廣森友人編著)は、国内の英語教育系の学術誌に論文を出版するための方法やコツを整理したもので、経験豊かな研究者らにより執筆されました。本書で紹介されている投稿テンプレートと記述は、アメリカ心理学会、Publication Manual第7版(2020)のJournal Article Reporting Standards(JARS)が反映されています。

 第3章「実証研究II(質的研究)」は、1. 質的研究手法を用いた論文とは、2. 質的論文に書くべきことは 3.英語教育研究における質的研究のアプローチと分析手法、4. 質的研究をまとめるにあたって気をつけるべきポイントで構成されています。本章では、事例として発表者の論文が取り上げられ、APAマニュアルの「質的研究論文報告基準」に基づき分析されています。本話題提供では、第3者による分析と照らし合わせ、論文の構想からデータ収集・分析、 査読者のフィードバックによる論文修正、出版まで、当時を振り返り、発表者の葛藤や反省にも触れながら解説をします。なお、事前に当該論文を読んでおいていただけますと、議論がより理解しやすいでしょう。

 

事例論文

「若手教師による学びと成長の軌跡―授業研究協議会後のインタビュー分析に基づく教師の認知」『言語教師教育』5(1) 47-67. https://www.waseda.jp/assoc-jacetenedu/VOL5NO1.pdf

 

(休憩5分)

 

3. 懇談会 16:00-17:00

 

本日の研究会の内容、皆さまの近況などについて、自由に情報・意見交換をします。各自飲み物等をご準備ください。

第40回外国語教育質的研究会第40回外国語教育質的研究会

日時:2022年1月8日(土)13:00-16:00 (懇談会16:00-17:00)

*Zoomによるオンライン開催

 

1.研究発表 13:00-14:25

 

題目:「第二言語話者の排除とその不快感の探究:授業観察とナラティブデータの分析から」

 

発表者: 清田顕子(早稲田大学大学院教育学研究科)

 

概要:英語による専門科目授業(English-medium instruction (EMI) 、以下EMI)教室内で受講生の間に英語力に差がある場合、相対的な英語力が低くなる受講生は発言が少なくなり、ディスカッション場面で疎外感を感じることが先行研究で報告されている(Iino, 2019; Iino & Murata, 2016; Kojima, 2021)。しかし、このようなEMI教室において、疎外感がどのように共同構築されているかを検討した研究は少ない。そこで本研究は、教室内での言語の使い方がどのように意図せず疎外感を共同構築するか、事例研究(Duff, 2008; Yin, 2018)で探索することを目的とした。研究対象の場として、ディスカッションが多く行われ、受講生間に英語力の差があるEMI教室に着目し、教室の観察データ、焦点参加者の振り返り日誌、インタビューデータを収集した。その結果、テンポの速いやりとりや排除のジェスチャーが、相対的な英語力が低い受講生のディスカッションへの参加を阻害していることがわかった。インタビューは、相対的な英語力が低い受講生と流暢な英語話者の双方に行い、双方の見解に光を当てた。インタビューの語りは、Labov (1972)の構造コーディングを応用したRiessman(2008)の構造分析を行い、語りがどのように組み立てられ、意味が形成されているか分析した。分析結果から、双方がお互いへの期待にすれ違いがあることが明らかになり、疎外が意図せずに共同構築されていたことが示唆された。

 

 この研究はパイロット研究データを分析したものです。当日は、皆さま方から様々な観点のコメントを戴きご教授いただけますと幸いです。

 

 (休憩5分)

 

2. 研究法紹介 14:30-15:55

 

題目:「テキストマイニングの理論と実践」

 

発表者:いとうたけひこ(和光大学)

 

概要:本報告では、初めにテキストマイニングという研究手法の紹介し、その特徴について述べる。第2に、テキストマイニングの有効性について探索的研究、仮説検証的研究、仮説生成的研究のそれぞれについて解説する。第3に、テキストマイニングの単独的利用と混合研究法的利用について概観する。次に、分析対象が情報的な性格を持つものと語り(ナラティブ)的な性格を持つものの特徴を比較する。さらに、テキストマイニングの限界について述べる。

最後に、時間をとって無料で使えるテキストマイニングオンラインソフト(ユーザーローカルhttps://textmining.userlocal.jp/)を紹介し、実習を行う。

実習にあたり、(1)インターネットにアクセス可能な状態にしておくこと、(2)テキストマイニング分析対象となるような文字データを準備しておくこと(20万文字以内でワード、エクセル、またテキスト形式のデータ。pdfや画像ファイルは不可。テキストの内容は自由。特にデータがない場合は、自分の書いた論文やウェブサイトの文章をテキスト化したものでもよい。)

参加者はテキストマイニングの特徴の基本的理解と実践的な体験学習を行う。また、ソフトの選択法(KH Corder, Text Mining Studio)についても理解を深めることができるだろう。

 

なお発表者は心理学者で、これまでテキストマイニングに関しては、論文出版(日本語35本、英語4本)、口頭発表(日本語48本、英語15本)を行っている。

論文 https://www.itotakehiko.com/papers/ 

学会発表 https://www.itotakehiko.com/conferences-1/

 

【事前学習(オプショナル)】

1) ユーザーローカル https://textmining.userlocal.jp/で例題「走れメロス」をクリックしてみること

2) 以下の論文を読んでおくこと (PDFをクリックでダウンロード可能)

R167 いとうたけひこ (2013). テキストマイニングの看護研究における活用,看護研究,46(5), 475-484. (PDF) 

3) いとうのテキストマイニングスタジオの研究例を以下のサイトで眺めておくこと(青字をクリックで論文をダウンロード可能)https://www.msi.co.jp/tmstudio/itoRoom.html

 

(休憩5分)

 

3. 懇談会 16:00-17:00

本日の研究会の内容、皆さまの近況などについて、情報・意見交換をします。各自飲み物等をご準備ください。

第41回外国語教育質的研究会

日時:2022年3月19日(土)13:00-16:00 (懇談会16:00-17:00)

*Zoomによるオンライン開催

 

1話題提供とディスカッション 13:00-16:00

 

ファシリテーター: 髙木亜希子(青山学院大学)

 

題目:『質的言語教育研究を考えよう:リフレクシブに他者と自己を理解するために』に基づいて:質的研究における「意味」とリフレクシビティ

 

概要:八木真奈美・中山亜紀子・中井好男(編著)(2021)『質的言語教育研究を考えよう:リフレクシブに他者と自己を理解するために』の第2章と第3章(八木真奈美・中山亜紀子氏執筆)に基づき、参加者同士でディスカッションを行い、質的研究における「意味」とリフレクシビティについて理解を深めます。第1部は、質的研究における「意味」について考えるために、質的研究におけるパラダイム、意味の理解、研究のゴールについて、本章や他の文献等を参照しつつ、用語や概要を整理してファシリテーターが話題提供をします。その後、ディスカッションのテーマを設定し、小グループに分かれてディスカッションを行います。第2部は、研究者とリフレクシビティ、研究のプロセスにおけるリフレクシビティを中心に、第1部と同様に、ディスカッションのテーマを設定し、小グループに分かれてディスカッションを行います。本話題提供とディスカッションにより、参加者の皆さんがご自身の実践や研究についても振り返る機会となるでしょう。

 

第1部 「質的研究における『意味』(第2章)」について考える 13:00-14:25

  

(休憩5分)

 

第2部 「リフレクシビティ(第3章)」について考える 14:30-15:55

 

事前課題:『質的言語教育研究を考えよう:リフレクシブに他者と自己を理解するために』

の第2章と第3章を事前にお読みください。読んでいることを前提に、ディスカッションを進めます。

 

(休憩5分)

 

2. 懇談会 16:00-17:00

 

本日の研究会の内容、皆さまの近況などについて、自由に情報・意見交換をします。各自飲み物等をご準備ください。