日時:2017年3月25日(土)14:00-17:00
場所:青山学院大学15号館15302教室
1. 研究発表 14:00-15:25
発表者:根本康平(青山学院大学大学院)
題目:Exploring the Intercultural Communicative Competence (ICC) of Japanese University Students Using the Autobiography of Intercultural Encounters (AIE)
概要:本発表は,平成29年度に提出された修士論文に基づくものである。近年英語教育では異文化間理解能力の育成に注目が集まっている。しかし、現在の学習指導要領では異文化を指導法や教材が明記されていない。異文化間能力の育成については海外でも意見が分かれている。その異文化間能力を育成する手段の 1 つとして、学習者が自身の異文化体験について振り返ることが挙げられている。そこで本研究では、日本人大学生2名を対象に、彼らがどのような異文化体験を経験してきたか明らかにすると同時に、異文化体験が学生の異文化に対する態度にどのような影響を与えたか、また体験について振り返ることが参加者の異文化間能力の態度にどのような変容をもたらしたかについて考察した。データ収集方法としては Autobiography of Intercultural Encounters、アンケート、半構造化インタビューを用いた。また分析方法として大谷(2008, 2011)の質的データ分析法 SCAT(Steps for Coding and Theorization)を用いた。分析の結果、参加者の異文化体験で共通していたことは、1) 異文化体験が彼らの現在の異文化に対する態度に影響していたこと 2) 異文化体験では、自身の英語不足をジェスチャーなど、非言語要素を用いて補い、体験後すぐに自身で振り返りを自然と行っていたことである。また異文化体験の振り返りの分析では1名には変容が見られ、参加者は改めて自身の異文化に対する有り方に気づき、体験を客観的に見ることにより 1) (体験における)相手とコミュニケーションを取れなかった理由 2) 相手との感情や態度の違いや理由 3) 異文化の中で自分が苦手としている部分 4) 日本のやり方だけが正しいわけではないことに気づきがあった。また参加者間の共通点として、両者とも振り返りの中で異文化体験を始めは否定的に捉えていたのに対し、体験の終わりに近づくとそれを肯定的に捉えるようになったというところがあった。ここから、異文化間能力を育成するためには、異文化を体験するのみならず、それについて振り返る機会を作ることが重要であると考える。
2. 研究発表 15:40-17:00
発表者:山本裕也(バーミンガム大学大学院修了)
題目:Investigating How the Pre-service Teacher education in Japan Influences Three Novice English Teachers' Possible Selves
概要:This qualitative study inquires into how three inexperienced language teachers have been influenced by the same English pre-service teacher education program in Japan, by drawing on their possible language teacher selves (Kubanyiova, 2009a). While responding to the call for scrutinizing their possible selves from the socially oriented epistemological perspective conceptualized as the participation metaphor (Kubanyiova in press), Various data were collected through autobiography, lesson plans, syllabuses for modules the teacher trainer undertook, and the semi-structured interviews with the teacher educator and novice English teachers. Through the analytical process of their sense making in past and present events they have, their collective data demonstrates that the influence of the training course might depend on how vivid and plausible their possible selves became. This result might suggest the importance of the elaborateness and plausibility in order for their possible selves to achieve the future self-guides. Scrutinizing their possible selves from the epistemological view could help us not only to grasp each complex interaction between their possible selves and the training program, but also to better grasp the impact of the teacher education on their current meaning making as a teacher.
日時:2016年12月24日(土)14:00-17:00
場所:大阪大学大学院言語文化研究科A棟2階大会議室(豊中キャンパス)
会場の詳細については、以下をご覧ください。
1. 研究発表 14:00-15:25
題目:中学校英語授業の教室談話分析―質的研究 現象学的アプローチの試み
発表者:泉谷律子(大阪大学大学院言語文化研究科博士後期課程)
概要:
本研究は中学校英語授業の教室談話について独自の質的分析方法を英語教育研究の
分野で開発することを目指すものである。発表者の哲学的基盤は、現象学に依拠している。
書き起こしの方法は、現象学的社会学に影響をうけたエスノメソドロジーから発展した
会話分析の伝統に則り、分析方法は現象学的アプローチによる研究が進んでいる看護学研究
の方法を取り入れる。
発表の前半では発表者独自の方法論に至った学問的、哲学的背景についての考察を発表し、
発表の後半では英語教師による英語授業実践の録画データ7例を現象学の知見を
参考にしつつ分析を行う試みを示す。研究の対象とする現象は、中学校および中高一貫校の
英語授業における教師と生徒のインタラクションである。本研究で関心の対象となる
インタラクションは、教師と生徒の英語でのやりとり、生徒の日本語の発話に対して
教師が英語で反応するやりとり、および教師の日本語の発話に対して生徒が英語で
反応するやりとり、といったインタラクションに限定した。
本発表の意義および分析方法、データの提示、哲学的基盤について皆さまとの意見交換、ご指導、
ご教示をいただければ幸いである。
2.話題提供 15:40-16:20
題目:TESOL/応用言語学研究分野の海外学会発表参加へのアプローチ
「質的研究により、TESOL/応用言語学のDisciplineにどのように関わることができるか。海外学会発表参加への準備をいかに行うか。」
発表者:上條武(立命館大学)
概要:
TESOL/応用言語学のDisciplineでは近年その研究手法の多様性やコンテクストにおける学習者の特徴や成果というものに視点が向けられている。イギリスで主要な学会であるBritish Association for Applied
Linguistics(BAAL)の年次学会のテーマでもここ数年では、世界のさまざまなコンテクストに注目したり、教育や応用言語の研究で創造性のあるアプローチを考察するということが扱われている。海外の学会に参加することは、教育および研究者にとってキャリアとして業績にも重要であるとともに、このうようなDisciplineの発展や方向性というものをよく認識、学習できる場でもあり、きわめて貴重である。
この話題提供では、次の2点についての説明を行う。1)いかに海外の学会の情報を入手して、参加をするかということ、そして2)BAAL SIG, LTFなどの学会で研究発表に参加した発表者自身の経験をケーススタディーとして紹介する。その後研究会参加者との質疑応答および議論をすすめていく。
3. 研究発表 16:20-17:00
発表者:上條武(立命館大学)
題目:Analyzing L2 Learners' Strategies through Strategy Portfolios in a Japanese University Reading Class: Application of Sociocultural Theory
概要:
L2ストラテジー研究は個別学習者ストラテジー調査のDescriptive studiesに始まり、近年は教授法調査であるIntervention studiesへと焦点が変わってきている。しかし、これらはコンテクストで必要なストラテジー使用が十分に調査できない。社会文化理論から成るCommunities of
practiceという枠組みにもとづく分析では、研究者はコンテクストで特徴となるストラテジーを学ぶために、学習者がコミュニティーの価値観や文化を理解、認識しつつ、自律的に学びを高めていき、ストラテジー使用を学んでいくというプロセス
を重視する。
English for Academic Purposes(EAP)におけるリーディングでは分析的/批判的なアプローチが重要で、認知ストラテジーは予測、パラグラフごとのtopic sentencesのみきわめ、キーワード/接続語の認識、推測をする、アウトライン/要約/意見の作成など混合的に使用される。さらにモニタリングと自己評価による学習も重要な要素である。
本研究では、Communities of practiceのフレームワークにもとづき、その1つの有効な手法であるポートフォリオによるL2学習者ストラテジー研究の手法、結果、考察を行う。研究は大学の中級から上級者むけのアカデミックなリーディングのクラスを対象として、40名の参加者から選別された成功したL2学習者のストラテジー使用のコーディング分析をCommunities of
practiceのフレーム
ワークにもとづき行っていく。
日時:2016年9月17日(土)14:00-17:00
場所:青山学院大学2号館22S2教室
会場の詳細については、以下をご覧ください。
交通アクセス:http://www.aoyama.ac.jp/other/access/index.html
キャンパスマップ:http://www.aoyama.ac.jp/other/map/aoyama.html
1. 研究発表 14:00-15:25
発表者:中川篤(広島大学大学院教育学研究科博士課程後期・広島大学附属中高等学校)
題目:教師の実践共同体における言語教師認知変容記述の試み
概要:本発表は,平成27年度に広島大学大学院教育学研究科に提出された修士論文に
基づくものである。発表の前半では修士論文での研究内容を発表し,後半では博士課程後期
において現在行っている研究の内容に言及し,ご意見を賜れればと考えている。
近年,教師の成長の実態を紐解くべく,言語教師認知の研究が盛んに行われている。しかし,
新任教師や教師志望者が教師の実践共同体のなかでどのように成長を遂げるかに関しては,
未だ明らかになっていないとされる。そこで本研究では,教職大学院に所属する男性一名を
研究協力者とし,彼が教育実習で教師の実践共同体に参加することを通じて,自らの言語教師
認知を変容させるプロセスの記述を試みた。半構造化インタビューやポートフォリオ等を通じて
質的データを収集し,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチと複線径路・等至性モデル図
の手法を用いて分析した。分析の結果,研究協力者は指導教員やその他の教員からの助言を通じ,
教科指導を行う際の視点を新たに身体化したり,生徒指導を行う際の信念を模索・獲得したり
する等の変容を見せた事が明らかになった。また,複数の教員から同様の指導を受けることで
新たな問題意識を獲得し,研究協力者の言語教師認知に変容が起こったケースも見られた。
ここから,言語教師認知の変容を促すためには,新人教員が抱えている問題のみに助言を行う
だけではなく,本人が気付いていない問題を指摘することによって,問題意識を持たせることも
重要であると筆者は述べている。
2. 話題提供 15:40-17:00
発表者:平野紀英子(茨城大学大学院修士課程)
題目:英語科教師の成長の模索 今からここから ーこれまでを振り返り、一歩先へ進む
概要:英語科教師は、他の職種と同じく経験から多くのことを学んでいくが、特徴的には何が
成長のきっかけになっているのだろうか。また、教師としての経験の違いは、授業の特色、
それぞれが抱える課題にどんな影響を与え、その課題をどんな風に解決していこうと
するだろうか。具体的には、若手教師(公立中学校での勤務8年以内)2名と15年以上の
経験をもち地域のリーダー的な役割を担っている教師5名の授業の特色の共通点や差異を
検討した。次にリーダー的な教師が成長のきっかけとして自覚している要素を分析した。
その要素を、若手の教師たちの成長過程や授業との関係で分析し、現在の課題解決への
取り組みの様子を叙述する。今回の話題提供では、若手とリーダー的な教師の授業の特色
の比較や、成長のきっかけと自覚している要素を分析する方法の的確性、および若手の
教師に焦点をあてたケーススタディの意義について、ご指導・ご協議いただきたい。
日時:2016年6月18日(土)14:00-17:00
場所:青山学院大学第15号館5F第13会議室
1. 研究発表 14:05-15:25
発表者:西田晴美(東京農業大学)
題目:音読実践初級学習者の体験プロセス
概要:本研究では、音読を一定期間実践した場合、学習者の読みとパフォーマンスはどのように変化するのかに焦点を当て、音読実践初級学習者の体験プロセスをたどりながら、読解力育成に貢献する音読の可能性を考える。2名の対象者が音読実践中に記録したジャーナル、および音読後に実施した質問紙調査とインタビューのデータを、M-GTAの方法を用いて質的に分析した。実践を通じて、一方の対象者は、チャンク認識向上、理解度向上、音読改善という変化を実感したが、もう一方は、音読には慣れたけれども、理解度について変化を実感することはなかった。二人の対象者のこの違いは、音読に対する取り組み方の違いによるものであった。向上を実感した対象者は、音読中、自分に欠落している文構造や音声変化の知識に気づき、これらを取り込みながら読み進めていった。本実践による音読では、気づきに誘発された知識のインプットを通じて学びを得ることができる一つの方法としての音読の可能性が示唆された。
2. ワークショップ 15:40-17:00
発表者:根本康平(青山学院大学大学院)
題目:SCATを用いた質的データ分析:異文化体験のリフレクションに関するインタビューを題材に
概要:本発表では前半でまず質的データ分析法SCAT(Steps for Coding and Theorization)、大谷(2008,
2011)の概要、またそれを用いた研究事例を紹介する。後半では、発表者が執筆した「大学生の異文化体験の振り返り」における論文のデータの一部を用いて、実際にSCATの分析を体験していただく。SCATは観察記録や面接記録などの言語データをセグメント化し、4ステップのコーディングと、そのテーマや構成概念を紡いでストーリーラインと理論を記述する質的分析方法であり、比較的小規模の質的データの分析にも有効である。この分析法の手法的な背景となっている考え方には、Glazer
& Strauss(1967)、Ragsdale(1998)、Schofield(1995)、木下(1999, 2003, 2007)などがある。